土地が借地権の自宅は、土地に借地権という権利があるため、実家を住居として使用する分には特に不便することはありません。しかし、売却しようと検討しているならば注意するべき点があります。
借地権は、地主との間で締結されている建物所有を目的とする土地の賃貸借契約に基づいて発生している権利です。そのため、建物の売主だけの意思で売却相手に借地権を移すことはできません。
借地権を第三者に移すには地主の承諾が必要です。
では、借地権上の実家を譲渡する際、地主への承諾交渉や承諾料について見ていきましょう。
目次
なぜ地主の承諾が必要なのか?
地主は現在の賃借人と土地の賃貸借契約を締結する際、無条件で契約を決めたわけではありません。きちんと地代を支払ってくれる人かどうか、信用できる人かどうか吟味した上で契約を決めています。
借地権を伴う土地の賃貸借契約というのは、売買契約のように代金が決済されれば終わりというわけではありません。契約期間が長期にわたるため、相手がどのような人かということは非常に重要なことなのです。
もし、地代をよく滞納するような人であれば、何十年もの期間にわたって悩まされることになります。
新たに土地の賃借人となる人を地主が見定めることができるようにするため、借地権の譲渡の際に地主の承諾を必要としているのです。
このことは、民法612条において、「賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。」と規定されています。
借地権の売却には、地主に承諾してもらう項目が多い
借地権を売却する際には、前述のように地主の承諾が必要となります。しかし、ただ売却(譲渡)の承諾を受ければいいというものではありません。
実務上、地主から受けなければならない承諾には主に以下のようなものがあります。
●譲渡の承諾(名義書き換え承諾)・・・売却(譲渡)自体を承諾してもらうこと
●建物増改築の承諾(建替え承諾)・・・売買に建て替えや増改築が絡む場合、建替えや増改築は買主が行うことがほとんどですが、売買価格に関係しますので事前に相談します。
●条件変更の承諾・・・借地権の目的変更(木造などの非堅固建物所有目的から、鉄筋コンクリート造などの堅固な建物所有目的への変更)、それに伴う期間の変更(20年から30年等)がある場合の承諾
●抵当権設定の承諾・・・借地権でも建物まで入れると相当な金額になり、現金で購入される方は少なく、買主側で金融機関の融資を受けることがほとんどです。その際、借地権上の建物に抵当権を設定することとなります。各金融機関所定書式の、地主から抵当権設定のための承諾書に実印押印(印鑑証明書添付)が必要となり、そのための承諾。
※各承諾や承諾料の詳細は別ページで解説します。
地主と交渉を始める前にやっておくべきこと
●借地に強い不動産会社に相談する
借地権を売却しようとする場合、地主に求める承諾は上記のほか多岐にわたり、一般の不動産会社では経験も少なく、対応ができないのが実情です。
経験豊富で、地主側の立場を理解しながら交渉のできる、借地権に強い、出来れば専門の会社に相談されることをお勧めします。
●借地権の相場、承諾料、手取り額を知る
不動産会社に借地上の建物を売却したいと相談すれば、現地調査や査定などを行ってくれます。この際に、実家の家を建てたときの設計図や契約書、重要事項説明書などがあれば、用意しておきましょう。
立地や建物の構造、間取り、築年数などをもとに査定額を出してもらえます。そして、不動産会社と媒介契約を交わしてから、地主との承諾交渉に移るという流れです。
●未払いの地代を精算する
実家の建物を売却しようと検討している人の中には、経済的な理由の人もいるでしょう。
もし地代に支払が滞りがちで未払い分がある場合、借地権譲渡の承諾交渉を始める前にきちんと精算しておく必要があります。
未払いの地代がある状態で借地権の譲渡交渉を始めても、まずは、未払い分を支払うように要求されます。
地主との承諾交渉はどのように行えばいいのか?
地主に、借地上の土地を売りたい旨の説明を行い、すんなりと地主が借地権の移転を承諾してくれれば問題ありません。
しかし、実際には承諾を渋ったり、常識を外れた承諾料を要求されたり、地代の大幅な値上げを条件として要求してくるなど、交渉がスムーズにいかないケースも多いため注意が必要です。
地主側は経験豊富で交渉に長けている方も多く、一般の人が交渉しても地主のペースになり不利な条件を要求されるケースも多々あります。
また、借地権の売買は、新たな借地権者との契約内容も交渉しなければなりません。
借地権の目的(堅固な建物所有目的か非堅固な建物所有目的か)・新たな地代の額・期間(現在の契約期間を引き継ぐのか、新たに期間を設定するのか)など多岐にわたります。
地主と長い付き合いでよく話をするような仲であれば、自ら交渉しても問題ないでしょうが、借地権の経験豊富な借地権に強い不動産会社を通して交渉するのが望ましいと言えます。
承諾料はどのくらいかかるのか?
承諾料の相場も、地主に借地権譲渡の話を持ちかける際に、把握しておかなければなりません。承諾料には、決まりごとは何もありませんが、一般的な価格としてはおおむね以下のようになります。
●譲渡の承諾(名義書き換え承諾)・・・借地権価格の10%程度
●建物増改築の承諾(建替え承諾)・・・借地権価格の5%程度(更地価格の3~4%)
●条件変更の承諾・・・内容による
●抵当権設定の承諾・・・承諾料のないケースが多い
地主が承諾してくれない場合にはどうすればいいのか?
借地非訟手続きという方法で、裁判所に申し立てを行い裁判所の許可を得て借地権を譲渡する方法があります。この場合、譲受人の支払能力やこれまでの借地の利用状況などを考慮して、許可を出すかどうかを決めます。
もし、裁判所が、譲受人に地代の支払能力がないと判断した場合には許可は出されません。これまでの借地の利用状況などから、許可を出さない場合もあります。
特に問題なければ許可がでますが、もし裁判所に申し立てを行っても許可がでなければ、買主を代えるか諦めざるをえないでしょう。
地主がなかなか承諾してくれないときには、一般的な承諾料よりも高い金額で折り合いをつけるのも1つの方法です。裁判所を間に入れる方法もありますが、地主と不仲なものを購入する買主は少なく、価格も安くなってしまいます。
地主にとっても、裁判をしてまで購入する借地権者とこの先長く付き合わなければならなくなり、建設的な話では全くありません。地主と借地権者とでよく話し合い、お互いに譲歩しあえる努力が必要と考えます。
まとめ
普段の地主との付き合いの中では、特に不便を感じなくても、いざ借地権と建物を譲渡しようとすると、借地権の様々なシビアな承諾に関する問題が絡んできます。
特に、借地権を将来売却する可能性がある場合には、出来る限り地主とは良好な関係を保つのが得策です。
「借地権の窓口」は、株式会社新青土地コーポレーションが運営しています。東京都杉並区高円寺を拠点に、不動産コンサルタント会社、公認会計士・税理士事務所、司法書士事務所がひとつのオフィスに集結し、お客様の問題解決に全力を尽くしています。